第5章 行政に期待される医療とは何か ~医療施策①~

医療特別対談 1
千葉県医師会長 入江康文氏・熊谷俊人

 県医師会の入江会長は、2018年まで千葉市医師会会長として8年間、千葉市の保健医療行政について連携してきました。特に、会員の医師が私と自由に意見交換する機会を意識的に作っていただき、私も医療の実態を理解した上で医療施策の意思決定ができるようになっています。
 今までの連携について、そして県医師会会長から見た私たちの医療施策について伺うため、お時間を取っていただきました。

入江 我々千葉市の医師会と市長の出会いからお話しさせていただきたい。最初の市長選挙の時、私は千葉県医師連盟という医師会の政治団体の責任者をしていました。あの時は急な選挙でしたが、市長のお話を聞いたとき、非常に歯切れがよくて、分かりやすい話をする方だと思いました。医師会の若手理事を中心にして、応援することに決めたのです。その後、見事当選されて、すぐ医師会に来てくれましたね。あの時から医師会と市長の距離がグッと近づいたと思います。その後、市長は市立海浜病院の夜間救急を視察に来てくれました。
 私は医師会の仕事が長かったので歴代の市長とお付き合いがありましたが、おそらく現場まで来られたのは初めてだったと思います。激励してもらったおかげで、海浜病院のスタッフも喜んで、医師会の中にもファンが増えてきたと思います。
 その数カ月後に私が千葉市医師会の会長となり、8年間ほど千葉市医師会の会長職を務めてきましたから、市長が就任してからの 10年間のうち、8年間はお付き合いをさせていただきました。

熊谷 就任した直後に医師会を訪ねたことを今でもよく覚えています。新型インフルエンザについて医師会の方が集まって協議をしていると聞き、市民の命と健康を守る非常に重要な局面なので、ご意見を伺いに行ったのです。夜、診察を終えられた皆さんが市民のために会議をしている姿を見て心強く感じました。海浜病院を訪問して、医師や看護師などの皆さんと車座になって意見交換したことを覚えています。

入江 それから、ことあるごとに直接お話をしていただきました。医師会の新年会や忘年会では市長さんの隣に特別な席を用意して、出席者なら誰でも座れるようにしたのです。

熊谷 入江会長のご配慮のおかげで、新年会や忘年会が親睦を深める場だけではなく、医師会の先生方のその時もっとも市長に話したい、知っておいてほしいことをじっくりと伺うことができ、私自身が医療施策について考える大きな財産となっています。

入江 医師会の新年会は会員だけが出席できます。他の業者はいませんし、市長には役員だけじゃなく会員と直に話をしてもらっていますからね。

熊谷 色々な会合がありますが、私は医師会の会合はほぼ最後まで残ってお話を伺っています。他の首長もあるとは思いますが、日程の都合でどうしても冒頭だけ出て、乾杯して退席ということはありますが、医師会だけは最後までいたいと思っています。医療政策に関して、会長や副会長の真意を確認したいと思ったときは、2次会まで行って確認しているので、かなりコアな議論をさせていただいたと思っています。それが千葉市の医療政策の一つ一つになっていると思います。

入江 おかげで若手の理事が非常にやる気になっています。市長と話をすると形になって残るので、皆やる気が出ますよ。

熊谷 様々なことを教えてもらいました。例えば、保育所にAEDがないと伺い、早速所管に話をして配置を促したこともありましたね。千葉市の医療政策で先駆けた部分は、全部医師会との意見交換の中で課題提起があってから、私が所管と議論して判断してから、決定しています。

入江 これまでのように、我々業界団体が陳情して、市長に進めていただくのではなく、カウンターパートのように「今何が必要か」「どこまで進められるか」について、話をすりあわせてどんどん実現していただいた。

入江 市長には色々なことをしていただきましたが、まずは子どもの医療から伺います。子どもが病気をしたときの保育所「病児・病後児保育所」を充実させました。もう9カ所になっていますね。

熊谷 病児・病後児保育は非常に良い形で進んでいます。医師会と連携して、小児科医の先生に作っていただきましたから。

入江 県内では前例がない形で進んでいますね。

熊谷 病児保育は小児科医の先生方の善意でやっていただいていますから、医師会の皆さまからご意見もいただき、少しではありますが補助を増やし、やりやすい形にしました。
 他市の事例では、病児保育事業者に丸投げしているところもあります。それに対し、我々のやり方は小児科医が受託をして、小児科医がいる場所に隣接する形で病児・病後児保育があります。なので、千葉市の病児・病後児保育には看護師はもちろん小児科医がいるのです。常に医療的なケアを受けた上での病児保育が実現しました。
 もちろん事業者に委託する方が行政的には楽です。ですが、病気の子どもたちに専門的な医療が受けられる状態の方が当然望ましいことです。もちろん千葉市も補助を出してはいますが、とても儲かるほどではありません。これは本当に小児科医の先生方の熱意のおかげでできていることです。私たち行政と、医師会の小児科部会の皆さんの信頼関係の中で、やってくださる方が順次手を挙げて増えているのです。

~千葉市の病児・病後児保育事業~ 
 千葉市内在住または市内の保育所、認定こども園、幼稚園、小学校などに通う幼児、児童が病気回復期中などにより通常の保育所などに預けることができない場合で、保護者が就労、傷病、事故、出産、冠婚葬祭などの理由で育児が困難な場合、市内の診療所に併設された病(後)児保育施設に子どもを預けることができる。
 2020年6月現在、中央区のるみえ内科病児保育「ゆりかご園」、中村内科クリニック病児・病後児保育「えんじぇるん」、青い鳥クリニック千葉病児保育室「あおいとり」、花見川区の岩田こどもクリニック病児保育室「うさぎのあな」、稲毛区のマリヤ・クリニック病児保育「ノア」、若葉区の清宮医院病児保育室「さくらっこ」、緑区のさとう小児科医院病児保育室「バンビーノ」、まなこどもクリニック「ポピンズルーム」、美浜区のおおた小児科病児保育室「ミルキー」の9カ所がある。

入江 麻疹、風疹も含め、各種ワクチンの予防接種も国や県に先駆けてやっていただきました。常に一歩先取りでしたね。政令市の中でも一番早く進んでいたと思います。

熊谷 予防医療は今後ますます重要になってくる中で、ワクチンで防げる病気はできる限り接種を促したいと考えています。私から担当部署にワクチンの接種拡大について検討を指示して、ある程度行政としての方向性が見えてきたら、真っ先に医師会の方にお話ししてきました。直接お話を伺い、水面下で協議して、施行までのロードマップを作れたのが、本当に良かったですね。これも医師会との連携のたまものですよ。
 ワクチンの定期接種制度を入れる場合、ワクチンと予防接種の手技料をどうするか、医師会との調整が必要です。ですが、千葉市と千葉市医師会の信頼関係があるので、「これでいきましょう」とパッときまる。お互いに、駆け引きをして、ムダな時間を浪費することは一切ありません。

入江 極端なことを言えば、市民にとって予防接種は安い方が良いが、医者の中には予防接種の料金をたくさん取りたいという人がいるのです。以前はその辺の調整が難しかったのですが、今は難しくないのです。

熊谷 医師会の皆さまのおかげです。千葉市は風疹・麻疹の予防接種の無料化などは国に先駆けていち早く取り組みました。オリンピックを見据えて、感染症が拡大した状況を想像し、今は麻疹対策に力を入れています。
 このように、ワクチン行政は、千葉市は全国的にも先駆けてきたという評価を、関係者や専門家から頂いている。それもこれも、普段からの医師会とのやり取りの結果です。

入江 本当に千葉市民は幸せだなと思うのが、小児救急の分野です。それまで、千葉市医師会の小児科医は、救急がちゃんとできなくて本当に困っていたのですが、市長のご判断のおかげで、急に充実しました。

熊谷 海浜病院は2010年5月、早産や多胎妊娠、妊娠高血圧症候群、切迫早産、前期破水などハイリスク妊娠に対応する地域周産期母子医療センターの認定を受けました。
 実際に私も見に行きましたが、千葉市だけでなく習志野市や船橋市など市外にも相当な貢献をしていると思います。

入江 地域周産期母子医療センターは産婦人科医から要望が強くて、でもなかなか実現しなくて、ずいぶん時間がかかりました。市長が力を入れてくれたおかげで、今では県内有数の施設となっています。
 それと、我々の分野とは直接関係ないが、待機児童を減らしたことは市政として大きなトピックではないですか。

熊谷 女性の医師も増えています。大病院には院内保育所があるケースが多いですが、一般の診療所などに勤める医師は、一般の保育所を使っていただくことになりますからね。

 

<千葉市の子育て支援策> 
 子育て支援の一環で、千葉市では2010年4月にこれまで教育委員会が所管していた幼児教育や青少年の健全育成事業と、保健福祉局が所管していた保育行政、子育て支援、児童福祉などの事業を統合し、子どもの施策を一元的かつ横断的に行う新たな局「こども未来局」を創設した。
 それまで、千葉市では、保育所などに入れない待機児童が毎年300人以上発生していたが、保育所整備などに力を入れ、2014、 15年の2年間に待機児童ゼロを達成した。

入江 成人の医療施策で市長が一番力を入れたのが健康寿命ですね。

熊谷 この点は入江先生にずっとリードしていただきました。

入江 千葉市の健康づくり推進協議会は、たまたま私が議長をしていましたが、委員やコンサルタントとして素晴らしい人を見つけてくださいました。一気に協議会が進み、減煙や禁煙の流れができました。

熊谷 市制施行100年に合わせて、100年を生きるプロジェクトということで今一度、減煙・禁煙を考えています。

入江 受動喫煙防止条例も、千葉市は早かったですね。

熊谷 これはもう、私としては思い入れがあります。医師会の皆さまも長年ずっと活動されてこられました。

入江 受動喫煙防止条例の制定については、東京都と千葉市が争っていました。東京都の医師会も非常に熱心で「絶対に1番になる」と意気込んでいました。千葉市も急ぎましたが、
残念ながら数ヶ月遅れてしまった。ですが、千葉市は内容が良かった。

熊谷 千葉市では、医師会も、議会も、全員が一致団結してあの条例を進めましたから、東京と比べて混乱が少なく、条例が可決しました。今も着実に説明会が進んでいます。

入江 東京都議会は割れましたね。

熊谷 自民党都議団が反対し、かなり割れた状態でなんとか可決となったようです。私たち千葉市は自民党も含め、一致した状態でした。それは医師会の皆さまと一緒に進めてきた結果です。医師会主催のシンポジウムに議員が多数出席していましたね。条例が施行される2020年4月から、間違いなく効果が出てくると思います。

入江 そう思いますね。

熊谷 そういえば、入江先生といえばヘビースモーカーとして有名でしたが、タイミング良く禁煙しましたよね。

入江 市長が講演会で「実は医師会長はヘビースモーカーで」と紹介してくれた。あれで「やめた」というか、やめさせられました。

熊谷 入江先生がたばこをやめたと聞いて、私は衝撃を受けました。入江先生まで禁煙されるなら、と思った方も少なくないと思います。象徴的でした。

入江 でも、禁煙したおかげで、「やめるのは簡単だよ」と説明しやすくなりました。

熊谷 データでも喫煙の有無で健康寿命が大きく変わるというのは立証されています。条例で、受動喫煙そのものによる健康寿命も大きく軽減できるでしょう。喫煙率の変化によって、健康への影響など、4月から大きく変わるでしょう。

入江 昔は喫煙の害といえば肺がんでした。今は全てのがん、心臓、血管に影響すると分かってきました。やはり、やめた方が良い。何より、私の名前で禁煙関係の要望書や陳情書が出たりしているのです。やめないわけにはいきませんよ。

熊谷 医師会には市や議会に要望書や陳状書を出していただきました。他の知事や市長から「どうやったらこの条例がこんなにすんなり通るのか」と聞かれました。

入江 あの時の議会対応は見事でしたね。反対意見が多そうな商工会議所もそれほど強い意見はありませんでした。

熊谷 医師会や議員と一緒に進めてきましたから、商工関係の方も「反対しても難しい」という雰囲気が出ていましたよね。飲食関係業者から出たたばこ関係の陳情を、自民党市議団も含めた議会が不採択にしました。これも衝撃的でした。そういう意味では、医師出身で自民党の茂手木直忠市議の影響がありますし、医師会の存在感が大きかった。医師会と協調して実現したこの条例は、きっと市民の健康寿命の延伸に大きな効果をもたらすと思います。

 

<千葉市受動喫煙防止条例>
 2018年9月19日、千葉市議会で、全会一致で可決、成立した条例。国の改正健康増進法に千葉市独自の規制を加えた条例で、行政機関の庁舎は敷地内原則禁煙(努力義務)、従業員がいる場合は小規模店であっても喫煙不可(罰則あり、キャバレーやナイトクラブは当面努力義務)、保護者は受動喫煙から 20歳未満の者を保護する努力義務などが規定されている。東京都の条例とほぼ同じ内容となっており、改正健康増進法では喫煙不可となる千葉市内の飲食店は全体の8%程度だったが、千葉市条例が施行されると7割が喫煙不可となる。

入江 今度は高齢者の対応です。最初に市長は認知症対策に乗り出しましたね。

熊谷 2012年4月から、千葉大には認知症に対する鑑別診断などをしていただく認知症疾患医療センターを作っていただきました。

入江 千葉市だけでなく千葉県全体に影響があったと思います。千葉市内では高齢者の介護や福祉、健康、医療面の相談に対応する「あんしんケアセンター(地域包括支援センター・
指定介護予防支援事業所)」も増やしていただきました。

熊谷 12カ所から30カ所になりました(2019年10月現在)。以前は各区に2カ所しかありませんでしたが、今は相当きめ細やかに対応できていると思います。

入江 介護予防など、かなり役に立っていると思います。

熊谷 30カ所に増やしたことで、相談だけでなく、職員が出向いて、介護予防の周知などもできるようになりました。

入江 この8年間、市民の健康のため、一緒に千葉市の医療政策に関わらせていただいて、感謝しています。我々としては本当に、一緒にやってきたという感覚が強いです。

熊谷 私もその思いでいっぱいです。

入江 私は2018年6月に県の医師会長になり、県の視点に立ってみると、千葉県は格差が大きいことに改めて気づきます。医療機関は千葉市や東葛、印旛地域に 75%以上が集中し、それ以外の郡部には 25%弱しかありません。しかも郡部は高齢化し、過疎化も進んでいます。医療のレベルも全然違います。そう考えると千葉市民は本当に幸せだと思います。

熊谷 県全体は外房、南房総との医療格差が必ずあります。だからこそ、医師会の皆さんの意見が県政に反映されることが重要です。
 入江先生は県の医療政策を変えようと、まずは県医師会の変革に挑んでおられますから、大変期待しています。
 入江先生のおかげで、千葉市の医師会は歯科医師会や薬剤師会、看護師のみなさまとの結びつきを強くしてくれました。先生と会うと、医師、歯科医師、薬剤師、看護師の全部の意見を同時にいただける。医師会が既にある程度調整してくださいましたから、この4団体の連携がある程度できているというのが本当に助かりました。入江先生には、こういうことを県でさらに大きくやっていただきたいと思っています。

入江 病院は外から見ると、医者と看護師がやっているように見えますが、実はあらゆる職種が回らないと医療はできません。千葉県を一つの大きな病院と仮定して、そこに医療関係者が全部加わって、うまく議論することが大切です。ですから、厚労省関係の医療関係団体が 17団体と農水省関係は獣医師会をいれて 18師会でミーティングをして、意見のすりあわせをしています。

熊谷 意見の調整をしてもらえると、施策の進み方が全然違います。例えば、歯と口腔の医療政策を充実させたいとします。私とすると、予算的にこれくらい拡大させたいという線があるものです。ベストなやり方を歯科医師会に提案していただこうとすると、千葉市の場合、歯科医師会は医師会たちと同様に、市の事情を理解してくださっていますから、逆に「公金を出す量を減らして、より多くの人に行き渡るようにした方が良い」といった提案が出てくるようになりました。

入江 当時の私の立場としては、千葉市の財政が苦しくなるのは困るからです。例えば、国民健康保険も赤字になってきているのに、我々が医療費をかけすぎると、別な部分が回らなくなってしまいます。例えば、子どもに対する予算も減らさざるを得なくなる。
 これは本末転倒なので、医師会の会員には「医療費を節約しろ」と、徹底的に節約を呼びかけてきました。ジェネリック(後発)医薬品はオリジナルと比べ、値段が半分ほどですから、積極的に使用を進めました。反対する人もいましたが、普及させるように努めました。
 それから、我々開業医が、あんまり巨額な設備投資をしてはいけないと思っています。巨額な投資をすると、回収しようと思ってしまいます。ですが、既存の市立病院の医療機械をフルに使わせてもらえば、全体の医療費を抑えられます。しかも、開業医の収入は減らない。千葉市全体を見て、こういうことも考えないといけません。

熊谷 市立病院と開業医の病診連携を進めてきていただいていますし、ジェネリックの使用比率も千葉市はかなり高いです。千葉市はジェネリックではない薬をもらった人が、ジェネリックに転換すればどれくらい医療費と自己負担を削減できたのかを知らせる「差額通知」を他市に先駆けてやってきました。それができるのも、ジェネリックを進めていくという千葉市の方針に医師会がしっかりと呼応していただいているからできることです。医師会の了承なくして、こういう政策はできません。

入江 様々な会議がありますが、一般的に行政は会議に出た人が決定権を持っていないので、「持ち帰って検討します」と言って、次の会議まで議論が進まず、時間がかかることがあります。ですが、市長の判断が入ると早い。その時点で行政の調整が済んでいるので、担当者も楽だと思いますよ。市長のおかげで、本当に医師会と行政の距離が近づいてきました。昔はそういう話をする雰囲気がありませんでしたから。

熊谷 医師会から私が聞いたものをトップダウンで「やれ」と言っているのではなく、お互いにすりあわせ「この辺で良いですね」と決まるので、すごくいい信頼関係が組織的にもできあがっています。最終的にはいち早いスピードでの医療政策の決定や支援政策という形で市民に恩恵がもたらされると思います。

入江 私は県医師会長となりましたが、県医師会の立場になってみると結構大変なことが多いです。県土が広く、考え方も保守的地域とリベラルな地域で地域差があり、全く別の世界に入ったと感じました。

熊谷 私が市立病院のあり方を考えているうちに、医療政策はやっぱり県だと行き着きました。県の役割は極めて大きい。政令市でも本当の意味での医療政策に関する権限も財源も全くないのです。
 県庁所在地にあるのですから、千葉市民のための市立病院というのがベースではありますが、海浜病院の周産期医療のように他市の方々を支えている部分があります。逆に千葉市民が隣接市町村の病院にお世話になっているケースもあります。医療行政はある程度、広域で考えなければなりません。そこを最適化できるのは、県でしょう。県も非常に努力をしているし、苦心もしているけれども、千葉市のように医師会や各種団体とトップレベルで密なコミュニケーションを深めてもらえれば、全体的な意思決定のスピードが上がってくると思います。政策の優先順位などもクリアになってくるので、最終的に県民や各市町村の皆さんに恩恵は返ってくると思います。

入江 例えば小児救急のことをお話ししましょう。千葉市は人口で県内の6分の1、医療資源の4分の1が集まっています。そんな千葉市ですら小児救急はきついのです。千葉県は広大な県土に、小さい自治体がたくさんあって、それぞれが救急医療をやろうとしていますが、とてもできる状態ではありません。
 むしろ、どこかに1カ所拠点を造り、少ない医者を集めて、各自治体は、そこに行きやすいように交通手段を整備するようにすれば、救急はできるはずです。医師会は一つだから、医者を結集しようと思えばできないことではありません。ですが、自治体がバラバラですから、県がリードしてくれないとやりようがありません。

熊谷 医療は住民が行政に期待する最重要分野の一つですから、政治的に非常に難しい分野でもあります。公的病院のあり方をめぐって市長選挙の争点となり、政争の具にされてきた歴史もあります。私たちも現在、海浜病院の建て替えにあたって、千葉市医師会の斎藤会長に審議会の委員にご就任いただくなど、議論を進めてきていますが、千葉市は落ち着いた状態で検討が進められています。
 入江先生は県医師会に行かれて、本当に県の医療界全体を静かに変えていこうという試みを一歩一歩されていらっしゃる。この結果は間違いなく県政に良い影響を与えます。だから、入江先生の思いがもっとダイレクトに反映されるような、県執行部や県議会、県内各医師会との連携が深まってほしい。そうすれば、千葉県の医療は間違いなく良くなると思いますよ。

 

<千葉市病院事業のあり方検討>
 千葉市は2018年6月、老朽化が進む市立海浜病院と市立青葉病院の今後の方針について議論する千葉市病院事業あり方検討委員会を立ち上げた。同委員会は2019年8月、熊谷俊人市長に答申している。
 新病院は、小児・周産期医療など海浜病院の特長を引き継ぐほか、救急搬送先が中央区の病院に集中している現状を踏まえ、救急医療を強化する。400床とした場合の概算建設費は、用地費を除き257億円という。

  ※この対談は2019年 11月に行われたものです 

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